2009年11月24日

加藤陽子『それでも日本人は「戦争」を選んだ』朝日出版社 一七〇〇円+税

 歴史って暗記科目だ。そう思って生きてきた。そう思っている人ってけっこう多いんじゃないかな。大学生はまちがいなくそう思っているからね。この間バイトの学生に「日本史とか好き?」って聞いたら、「好きですよ」という答えが返ってきた。へぇぇぇ、と感心して、「どこがおもしろいの」と返すと、
「私、覚えるのって得意なんです。それで覚えただけ点が取れると楽しくって。努力の甲斐がすぐに出るでしょ。」
 笑い話みたいだけど、その学生、ごくまじめに答えてんの。ほんとうにマジな話なのね。そんな人が教師になってまた覚えるだけの歴史を教える。そうやってどんどん歴史は受験以外に役に立たない科目になっちゃうんだな。

 あれ?この逸話、可笑しくない? ……あ、そうか。この話、何が可笑しいのかもたぶんわかんない人がいるかもしれないわね。なんせそういうふうに教わってここまで来ちゃえばねぇ。そういう人のためにひとこと言うと、歴史って暗記科目じゃなくて考える科目なのね。そして受験じゃなくて日本の明日のために役に立つのよ。きっと。
 そういうことを実際にやってみたのがこの本。書いたのは東大の日本史のセンセイ。でもこの本はこのセンセイが書いたと言うより、このセンセイが中学生、高校生に講義した成果なのね。だから、中高生向きの教科書と考えればいいわ。
 加藤センセイは日本史の教育は大学では遅い、鉄は熱いうちに打て、とかねがね思っていたようなのね。それで彼女なりの「理想の教科書」を書きたかったらしいんだわ。それを知った朝日出版社が加藤センセイに中高生を対象に講義をさせるという企画をしたらしいの。その成果がこの本というわけ。
 というわけで、加藤センセイの日本史講義は二〇〇七年の年末から翌年にかけての五日間の集中講義で行われたのね。お相手は栄光学園中学一年生から高校二年生までの一七名。歴史研究部のメンバーが中心だというので歴史に対する関心は強い生徒たちだ。という前置きはさておき、五日間の集中講義なので、講義を聴くつもりで読むとついていきやすいわ。実際の講義をもとにしているから、ときどき生徒に問いかけたりしているのね。そのやりとりがけっこうレベルが高い。しかし、中学生や高校生でこの程度の反応はできておかしくはない。そういう素地があればね(小中学校の責任だよ)。
 で、題名がすごいでしょ…「戦争」を選んだ…だもね。講義のテーマは「日本の近現代と戦争」なんだ。日清戦争に始まり太平洋戦争に至る、その戦争をどうして日本は選択してきたのかを生徒たちにまさに当事者になったつもりで考えさせながら歴史を解読していくのだ。日清戦争-日露戦争-第一次世界大戦-満州事変と日中戦争-太平洋戦争と章立てはそうなっているけど、それらの戦争はずっと一貫して続いてきたんだってことがわかるし、それは日本とアジアだけに閉じた歴史じゃなくって、世界史的な構造の中での話だったことがわかってくる。学校の歴史教育が日本史と世界史に分かれていること自体がおかしいのかもしれない、と思っちゃうね。
 そうすっとね、単純に侵略したとかしなかったとかではなくて、その時代の中にいた日本人の歴史を選択してきた理由を推し量ることになるんだなあ。歴史ってこんなに意味のあるものだったんだってことがよくわかる。受験のためだけに暗記させていく歴史教育がいかに非効率的かってこともよくわかるね。だってこの本のほうが教科書よりもよく歴史がわかるんだもん。わかるだけじゃなくて、この本を手かがりにちょこちょこ調べていくと入試なんて屁のカッパだな。ちゃんと理屈の通った物語として頭に入っていく。試験対策に覚えなくても自然にいろんな物事が頭に入っていく。まさに「理想の教科書」なんではないかな。
 平和教育に戦争の悲惨さだけを実感なくつたえたり、侵略と被侵略の単純な構図なんかで歴史をいじりまわすこともちゃんちゃら可笑しくなっちゃう。そんなわけで、この本で授業改革できそう。
 自分で授業を作るためには参考になりそうな文献やらなんやらは加藤センセイがいっぱい紹介してくれているから、自分なりの授業プランが作れそうだし、高校だったら日本史と世界史をドッキングさせて授業作りもできそう。但し、教師の力量が問われることもまちがいないけどね。
 もちろん、フツーに歴史書として読んでも痛快。あたしも松岡洋右を見直しちゃったし(国際連盟脱退の時に席を蹴って退場するイメージとは別の、ほんとうは戦争なんかしたくなかった彼を知ってしまったの)、何枚も眼から剥がれる鱗があると思うよ。
 とは言え、この栄光学園って、東大に何十人も入る進学校なんだ。そう言うと「だから、こういう講義をやっても成り立つんで普通の高校じゃねぇ、ちょっと無理じゃない」などという自己防衛の声が聞こえそう。でもね、この学校、例えば高一ゼミというのがあって、「沖縄」とか、「原子論の歴史と原子論的な歴史の見方・考え方」とか、「映画で学ぶ世界の歴史」みたいなテーマの成績のつかない少人数教育をやっている。そう、「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考える」下地ができているんだね。単なる受験校ではないのだろう。
http://ekh.jp/ga/k1z.html
 とは言え、やはり、当然ながらというかレベルのチョー高い学校であることにかわりはない。しかも歴史好きの歴史研究部のメンバーだからね。でも、いやだからこそ見習うべきことは見習った方がいいと思う。


☆☆☆☆ そして、二度と戦争を選択しないためにわれわれはどうしたらいいのか。それを考えるのにも本書は必読だ。

戦争をしたがるやつが増えたなと保守で通した老父が怯ゆ   休呆

そういうやつらに読ませたい。
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2009年09月30日

藤岡信勝著『汚辱の近現代史』徳間書店 一九九六年

 東京大学教授・藤岡信勝氏がこれまで近現代史教育を自虐史観であるとして批判し、自由主義史観なるものを提起した著作である。いまさら紹介する必要もない本ではあるけれど、読まずぎらいはよくない。一度は目を通してきちんと批判はしておかなくてはならない本だと思う。世の中には気に食わないものは見たくないと言って遠ざける人もけっこういるみたいだ。くだらないから、と無視するのは簡単だけどそれは教師としての責任を放棄したことにもなるのかもしれない。
 藤岡氏の目指すところは「元気の出る歴史」であり、「誇りの持てる歴史」教育である。しかし、歴史というのはまずは事実が何なのかが問題なのである。それをどう解釈するかは史観と言うよりその人間の人間観、人生観の問題であろう。たとえば慰安所について文部省の建物の中の民間業者が経営する食堂の例に戦地慰安所と軍の関係をなぞらえて、この食堂は文部省の経営ではない(=慰安所は軍の経営ではない)と論じている。そういうのを我々はふつう文部省の食堂と言うし、軍の施設だと言うのだけれど、それを経営の責任がないことの言い逃れに使おうとすればするほどそこで辛酸をなめた人の神経を逆なでしていることに気づいていない。その無神経さに語る人の人間観が顕れてくる。そのことが藤岡氏が言う「戦略論で近現代史を見る」に際しても「戦略」そのものを誤る原因でもある。くだらないからと無視してはいけない。きちんと読んで、しっかりと呆れるべきであろう。

 ★★★★ こういう本はちゃんと読んでおくべきだ。



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家永三郎監修 教科書検定訴訟を支援する全国連合会編集・発行『教科書から消せない戦争の真実―歴史を歪める藤岡信勝氏らへの批判』

 藤岡信勝氏ら自由主義史観を標榜する人たちの発言が喧しいので、業をにやした家永三郎、吉見義明、藤原彰、安井三吉、大日方純夫などの論客が寄稿したブックレットである。とりあえず藤岡氏らに反発を感じる人ならすぐに共感できる内容かもしれない。しかし、この批判は自由主義史観を標榜する人たちには通じない気がする。なぜならばこのブックレットの書かれ方を藤岡氏たちは「自虐史観」と呼んでいるのだろうから、である。
 もとより藤岡氏たちはこのブックレットに書かれている歴史叙述のたぐいに反発しているのだから、たぶんまじめに批判としては受け止めていないのではないかと思う。とくに大日方純夫氏による「藤岡氏らの近現代史認識を問う」という一文は藤岡氏らとの近現代史認識のちがいは鮮明にしたけれど、それまでであってまったくの平行線であることを示すにとどまっていると思える。そう思うとよけいに腹立たしいが、議論となっている史実についてきっちり学べる好著ではある。

 ★★ 手軽に学べるという意味ではいいけれど、史観をめぐる論争には向かないな。


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宇佐美寛・池田久美子著『「近現代史の授業改革」批判』黎明書房 一九九七年

 もちろん「近現代史の授業改革」というのは藤岡信勝氏が提唱する自由主義史観の歴史教育をめぐる動きのことである。藤岡氏らがディベートからはじまってこうした授業改革の提唱にいたったことはよく知られている。本書は「〈虚偽〉を研究することによって、正しい思考のあり方がわかる」という観点から論理的思考を鍛えるために書かれたものであり、「藤岡氏の著書・論文は様ざまな種類の虚偽が含まれている宝庫である」と宇佐美氏は見ている。宇佐美氏は藤岡氏が議論において番(turn)を守っていないこと、事実のつまみ食いという論争の基本において藤岡氏の論法の〈虚偽〉を指摘している。本書の大部分は池田久美子氏が書いているが、池田氏は藤岡氏の論理の矛盾を徹底的に析出していく。「極限事例の虚偽」、「過剰限定の虚偽」、「先決問題要求の虚偽」、「二重基準」、論点変更の虚偽」、「無知に乗ずる虚偽」、「事例による操作」、「すじちがいな比較」、「不当前提の虚偽」、「語の意味の歪曲」、「目的による操作」、「主体不問の虚偽」といった藤岡氏の〈虚偽の技法〉をあばき出していく過程は実に痛快だ。自由主義史観に対する批判としてだけではなく、論理的思考を鍛えるために日々の授業において活用したい。

 ★★★★ 自由主義史観の手口が満載。悪用しないでください。自らの論理的思考を鍛えるためにもチョーおすすめ。


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糸島地区「同和」教育推進教員の会 人権・部落問題学習班『糸島発!人権・部落問題学習のツボ 2002』

 これもまた「同和」教育とカッコつきの団体が出している本だ。しかもこれにも値段は付いていない。しかし、「ツボ」なんちゅう魅力的なモロ・ハウ・ツー的単語がタイトルにあるとそそられるよね。
 これもローカルな教員団体の手作りなんだけどやっぱりひそかにビッグネームが支えているのだ。福岡部落史界の牽引車石瀧豊美さん、部落史学習に新風を吹き込んだ住本健次さん、そして今や飛ぶ鳥を落とす勢いの売れっ子外川正明さんなんかがさりげなく糸島で学習会の講師をしたらしく、それが理論的支柱となっている。そして糸島の同推教員の仲間がそれぞれの実践を持ち寄ってすぐに使えるマニュアル本になっている。
 まずは理論編。部落問題学習プレゼンテーションとして「部落問題学習キーワード2000」ちゅうのが小学校、中学校別に示されている。2000といっても2000個もキーワードがあるわけじゃない。21世紀仕様とでもいう意味なんだろうね。それから前述のビッグネームの方々のご提言で理論編は充実してくるのだ。
 次いで実践編。こっちはぜんぶで五領域にわたり糸島の教師たちの血と汗と涙の実践マニュアルが満載されている。
 Ⅰはオリエンテーション。「なぜ、歴史を勉強するの?」という問いかけをするものだ。「歴史は自分とつながっていて、これから自分たちがどのように歴史を造っていくのかという視点をもたせる」のだそうだ。う~ん、ほんとうにそういう視点を持ってくれれば部落史学習に限らず歴史教育は有意義なものになるのにね。おっ、このオリエンテーションは子どもに対してだけでなく職員や保護者もターゲットになってる。そう来なくっちゃ。
 Ⅱは中世。一休さんの漫画や「もののけ姫」が出てきたり、架空GTの出てくるワンポイントTTのシナリオとか、楽しそう。
 Ⅲは近世。ここではまず「日本人の身長の歴史」という住本健次さんの授業構想をアレンジしたものから始まる。仮説実験授業というやつだ。それから江戸時代のくらしや近世の差別問題の学習などのツボが描かれる。しかし、「つくられた部落差別」とか「三従の教え」が「部落差別の根源と重なる」などという表記にすこし短絡的な印象を拭えないが、まあ「ツボ」だから仕方ないか。
 Ⅳは近代。当然、解放令から始まる。次は西光万吉、水平社の話だ。そして松本治一郎に至る。「ツボ」だからこうなるのだが、渋染め一揆→解放令→水平社 →松本治一郎と教材を並べて部落史の授業をつくると渋染め一揆のエネルギーが水平社に結びついたような理解を子どもたちはしてしまうのではないかな。「ツボ」だから仕方ないけどその間を埋める作業がこの本を受け取った教師たちに求められるのだろう。
 Ⅴは現代。前原市の人権のまちづくりや志摩町の『会い 愛 合いコミュニティ』なんかが紹介されている。『会い 愛 合いコミュニティ』というプロジェクトはすばらしい企画なんだから行政はもっと力を入れてほしいのだけど、こうやって紹介されると子どもの側から押し進めてくれるかもね。
 これもざざざっと全体を紹介しちゃったけれど、たぶん「ツボ」を押さえた上で現場の教師たちはもう一工夫しなきゃいけないようにできている。そうだよ、完全マニュアルができたらまず「同和」教育はマンネリ化、風化しちゃう。その意味で本書は「同和」教育に携わる教師教育の書なのだろうな。ほら手に入れて使いたくなっただろう。
★★★★ この本を買って紹介されている実践を真似しようとあさましいことを考えてはいけない。この本をゲットしたら、この本に負けない実戦の書をそれぞれの地区や職場で造っていこうじゃないの。そういえばこの本にも定価はついてない。手作り本だからだ。でも手頃な値段でワタシはゲットした。発行者は糸島地区「同推」の会 人権・部落問題学習班なんだけど、県同教に問い合わせて!


posted by ウィンズ at 11:25| Comment(0) | 歴史教育 | 更新情報をチェックする