2018年08月13日

新井紀子『AIvs.教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社 一五〇〇円+税

 このところ学生たちの書いてくるものがおかしいことに気づき始めた。まるで自分というものがなく、どことなくあいまいなニュアンスの漂う、確固たる意思のない文章が多いのだ。そう言えばちょっと前に国立情報学研究所が高校生の読解力を調べたテストの結果を公表していたのを思い出した。そして、同じ国立情報学研究所がコンピューターに東大合格をさせようというプロジェクトを動かしていると言うことと、受験業界で言うMARCHレベルなら合格できるが、東大は無理というような見解を発表したのを新聞で見たような気がする。
 本書はその両方を仕掛けた新井紀子さんによって書かれた。新井さんはAIとはartificial intelligence、つまり人工知能のことである。AIは時として将棋のプロに勝ったりする。なので、受験勉強くらいどうということはない、と多くの方は思っているにちがいないし、わたしもそう思っていた。なにしろMARCHレベルには合格できるというのだから、わたしとほぼ同じ学力があるということですもんね。ところがなかなかそこは難しいのです。
 AIが学力をつけるというのはどういうことなのか。それは多くのデータをコンピューターが読み込み、そのデータに基づいて統計的に解答を導き出すというやり方のようです。その詳しいやり方については本書をじっくり読んでみてください。あるところまでは点数を出すことはできますが、そこから先は読んで考える力が必要になってきます。そこがAIの限界のようなのです。そうしたやり方なのだということをまずは納得です。大変な作業なんだろうけれど、そういう学習を重ねてAIは「学力」を獲得していく訳なのです。AIでよく見るのがアップルの「siri」だとか、グーグルの 「OKグーグル」みたいに音声で会話できる技術がありますね。あれもAI技術なんですが、わたしはまったく信じていない。やったことにある人なら覚えがあると思うけど、しばしば奴らが犯すとんちんかんな回答にわらってしまうところがあります。それは音声で人語を装ってデータを読み上げてくれるとき、そこに意味を理解していないな、という感触や、こいつらなんの問題意識もないだろうという実感があるからです。明らかに人間ならやらない無感覚な応答パターンがあるからです。それはAIの学習方法にあるんですね。
 本書の前半ではそのことを理解して欲しい。
 そして後半では「教科書が読めない子どもたち」について書かれています。新井さんたちは基礎読解力をチェックするテスト、リーデング・スキル・テスト(RST)を開発して高校生に試したのだそうです。
 以前新聞などで公表されて有名になった問題を一つ紹介しましょう。
〔問〕
 仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセア
ニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広が
っている。
 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうち
から一つ選びなさい。
 オセアニアに広がっているのは(  )である。

  ① ヒンドゥー教  ② キリスト教   ③ イスラム教   ④ 仏教

 こんな問題を出して人をバカにするんじゃない!と怒りたくなるような問題だが、中学生の正答率は62%、高校生の正答率は72%だそうです。教育問題としていうと、中学生の38%、高校生の28%がまちがえたということになります。
 そしてこうした基礎読解力は読書習慣、学習習慣とはまったく相関関係がないということに驚いちゃいました。読解力を上げる方法はこの程度のアンケートではわからないということのようです。一つだけ「貧困」は相関関係があったということです。
 で、何が問題か、ですね。これはわたしの推測でもあるんだけど、今の学校での学びはややもするとAIの学び方をしているんではないか、って感じるんですね。いっぱい勉強してもそれは問題をこなしたり、いろんな解答例を覚えたりというふうに。そこには物事についての「意味」は考えない。「問題意識」も持たない。だから「siri」のような知識の獲得しかできない、ということなんだろうと。それでも入試ならMARCHくらいまではいける。いけるから、教師たちはそれでいいと思い込んで特訓を繰り返すということが続いているんじゃないのかな。
 じっさいにわたしの見ている学生たちは表面的な概要を抜き取って並べるというまとめ方をし、ネット情報を切り貼りしてレポートを書いてくる。毎度の講義の感想も板書の抜き書きを並べて、「いいと思います」程度のコメントをつけてくる。自分で考えた形跡が見られないのですね。ともかく教科書に書いてあることや講義で聴いたことの意味がわからないのだから、身につくものは少ないということになりますね。
 しかも、そのやり方は彼らの個性そのものをどんどん潰していっている気がします。ていうか、その確証をこの本で得たってとこかな。
 受験勉強は本来自分の頭で、自分の努力でやるもののはずですが、それを教師が、学校がやってしまっているのではないかと思います。新井さんは教師の批判はしないと書いていますが、わたしは批判したい。
 学びに対する主体性。知識に対する問題意識。そして物事の意味を考える。そうした訓練が必要なんでしょうね。読書の仕方、学習の仕方を見直さないと、読書も学習も逆効果になるってことなんでしょうね。
 そういう問題意識でこの本を読んでみて、明日からの授業を見直して欲しいな。

☆☆☆☆ でも、学力の実態がそうなってから実はもうずいぶん経っているんじゃないかな。この本を本でも意味のわからない人が実は教育関係者にも、行政にもいるのかもしれない。最後にもう一つの問題。
〔問〕
 アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同
じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうち
から一つ選びなさい。
 セルロースは(  )と形が違う。

  ① デンプン   ② アミラーゼ     ③ グルコース   ④ 酵素

 某新聞社の論説委員から経産省の官僚までまちがっていたというから、・・・ねっ!


posted by ウィンズ at 07:03| 福岡 ☀| Comment(0) | 教育及び教育問題 | 更新情報をチェックする
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