2017年05月10日

木村玲欧『戦争に隠された「震度7」』吉川弘文館 二〇〇〇円+税


 四月十四日の夜ね。ちょうど職場の飲み会の帰りに小倉発九時二十七分発の電車に乗って発車を待っていたときに
「地震です、地震です」
という声が車内のどこかで鳴っていた。声が鳴るというのもおかしな話なんだけど、わかりますよね。たぶんどなたかの携帯の緊急災害情報が反応したのね。車内はそんなに混んでなかったのだけど、乗客のみなさまがたはそんな声は気にしないでキャーキャーおしゃべりに興じているご婦人たちの集団の他は静かに押し黙ったままなのね。わたしは携帯電話を職場に忘れてきてね、ちっとも状況がわからなかいのが不安だった。
 で、「さあ、来るよ!」と待ちかまえていたら、ぐらぐらっときた。でも、それ以上ではないという感じだったし、あの賑やかな集団は地震のことなんてひと言も話題にせずに賑やかなおしゃべりを続けていたし、電車は二〇分くらい遅れて発車したので、
「たいしたことはなかったのかな」
と思ったんだけど、帰ってニュースを見てそれはそれは驚いたわ。小倉で感じる地震と熊本で起きた地震の差というのはこういうことなのね。
 地震に限らず災害というのは特定の地域にダメージを与えるけどちょっと離れればどうということのない問題なのね。でも、熊本といえばいっぱい知り合いもいるし、心配になるじゃない。それで、余震の速報が入るたびにテレビを見るでしょ。そしたら変なことに気づいたの。鹿児島に知人がいるので、鹿児島の揺れも気になってたんだけどテレビに映るのは鹿児島以北の九州の地図なのね。
 で、鹿児島の知人に電話したら、
「こっちもかなり揺れてるわよ」
ということだった。
 その時、思い浮かんだことがある。原発よ、川内原発。あれがだいじょうぶかどうか気になってテレビの画面を見直すとちょうど南側の隠れたギリギリのところなのね。メディアは川内原発が存在しないとは言ってないけど、熊本の地震を報道するときに川内原発は見せたくないのね。そうかどうかはわかりませんが、そう思われても仕方ないわよね。
 どっかの放送局の籾井会長が局内の災害対策本部会議で、
「住民の不安をいたずらにかき立てないよう、公式発表をベースに伝えてほしい」などと発言したんだそうな。このことを参院総務委員会で質問されて、
「川内原発の問題については、いたずらに不安をかきたてることがあってはならない」
と改めて主張したんだって(『朝日新聞デジタル』2016.5.11 5:00)。
 それって、国家権力にとって都合の悪いことは知らせないということよね。
 で、この国には以前も似たようなことがあったんだ。平和教育やなんかで、戦争で日本は空襲やらなんやら被害を受けたことは教わってきたし、教えられてきた。でも、それらは戦後そんなことがあったんだって事実がわかってきてから共有化されたことなのよ。原爆だって最初は小さな記事だったみたいだし、その実体が明らかに報道されたのは戦後何年か経ってからだって、このあいだある人から聞いて驚いた。
 そしてさ、この本を読んでびっくり。あの戦争の終盤の昭和十九年十二月七日に東南海地震、さして年の明けた昭和二十年一月十三日に三河地震という大地震があったことをみんな知っているかしら。
 東南海地震はマグニチュード七・九の海溝型地震で、震度は七、死者・行方不明者は一二二三人だというし、三河地震はマグニチュード六・八の直下型地震で、死者は何と二三〇四人にのぼる。こんな大地震なのにみんな知ってた?
 本書は二〇一四年の発行です。本書を書いた木村さんは阪神・淡路大震災の研究をしていた人で、名古屋大学に勤めていた頃に愛知県内で阪神・淡路大震災の講演をしたんだそうです。その時に聴いていた人から、
「阪神・淡路大震災は自分たちとは関係ない」
「愛知県ではそんな大きな地震は起きたことがないし、これからも起きることはないだろう」
というような反応を得て驚いたのだそうな。なんと地元ですらその史実は忘れられていたということなのね。
 著者の木村玲欧さんは「情報学」が専門なのでそういう観点からこの本を書いている。地震がどのように隠され、また報道されてきたのかということを歴史的に振り返り、過去の記憶(体験談)を掘り起こし、そうした過去から何を教訓とすべきかということが書かれているし、すごい刺激的ね。情報を伝えていくことの大切さと、伝えないことの怖さを痛感しましたよ。
 でね、山下文男『隠された大震災―太平洋戦争史秘録』(東北大学出版会)も同じ地震について書かれた本で、合わせて読んだけど、これもおもしろかった。歴史の本として国家の隠蔽を告発しているのでぐいぐい引き込まれましたね。大学の出版会の発行だからお堅い本かと思ったらとんでもなく読みやすい本でした。こっちも紹介したかったけれど、実は二〇〇九年刊行でちょっと時間が経っている。でも、東北大学・・・でしょ。東日本大震災の直前だったのね。ちょっと哀しすぎるな。でも読んでください。


☆☆☆☆ 日本の報道の自由度ランキングは今年は七二位まで下がったそうな。二〇一〇年に一〇位だったのに、昨年は六一位、そして七二位。そういう時代だからこそ読んでおくべき本ね。 
posted by ウィンズ at 15:30| 福岡 ☁| Comment(0) | 戦争と平和 | 更新情報をチェックする
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