2017年05月10日

学校沿革史研究部会;山谷幸司・米田俊彦 学校沿革史の研究 高等学校編1、2


 本書は野間教育研究所紀要第50集及び第57集として刊行されたものである。野間教育研究所で2000年10月に立ち上げた「学校沿革史」研究部会が、高等学校および大学の沿革史の研究をおこなってきたが、2008年7月にその成果として『学校沿革史の研究 総説』を刊行、次いで2011年9月に『学校沿革史の研究 高等学校編1 長野県の高等学校沿革史』、2013年7月に『学校沿革史の研究 大学編1』が、そして2015年8月に『学校沿革史の研究高等学校編2』、2016年2月に『学校沿革史の研究 大学編2』が刊行された。『総説』の「はしがき」によれば、「学校沿革史という作品がもつ教育史研究、歴史研究の側面について、その成果を確認し、評価してみようという趣旨」に基づくものであり、「評価の観点や基準を示すことができれば、今後編纂される学校沿革史に対して編纂の指針を提供することができるであろう」という目的が示されていた。であるから、総説、大学編も含めて紹介するのが妥当なのかも知れないが、本稿ではこのうち高等学校編について紹介しておくことにとどめることとする。
 前述のように『高等学校編1』は2011年の刊行であり、米田俊彦の単独執筆である。それから4年を経て『高等学校編2』の刊行となった。こちらは山谷幸司と米田俊彦の共同執筆となっている。「学校沿革史」研究部会の方針では高等学校沿革史においては(1)都道府県単位の比較分析、(2)テーマ別比較分析、(3)個別沿革史の検討という枠組みを設定している(『高等学校編1』「刊行に際して」)。
 『高等学校編1』は「長野県の高等学校沿革史」とサブタイトルが付されているように長野県を事例に「都道府県単位の比較分析」を試みた結果(5頁)である。長野県に限定したのは東日本大震災により宮城県担当の山谷氏が執筆できなくなった所為で、「宮城県については、高校沿革史の「(2)テーマ別比較分析」「(3)個別沿革史の検討」の検討結果を刊行する際に合わせて収録することとした」(「刊行に際して」)という。『高等学校編2』はそういう位置づけで執筆されたと考えたい。『高等学校編1』では長野県の高等学校沿革史についての概要を一覧できるようにした上で前身校が中学校、高等女学校、実業学校などの種別ごと、および「複数(異種)の学校を統合」したもの、戦後創立の高校、私立高校に類型化し、比較分析を行おうとしている。各沿革史の内容の特徴が簡潔に抽出されていて、それらを読み比べるとなるほど各沿革史の編集方針や姿勢のちがいはよくわかる。「おわりに」では類型別の比較分析のまとめがされているものの、これから沿革史を編集しようとする人間から見れば、読者自身の比較の眼に期待する部分も大きいと思う。それだけ的確に各沿革史の特徴が抽出されているので、新たに高校沿革史の編纂事業に取り組む高校があるならば、参考になる事例は類型を超えて存在すると思う。
 『高等学校編2』は大きく2部に分けてある。第1部は「都道府県単位での沿革史の比較」であり、第2部は「テーマ別比較分析」である。第1部の第1章が宮城県第2章が神奈川県を扱っているが、宮城県については6校のそれぞれの沿革史の編纂方針、構成と内容が要約されている。一方、神奈川県については旧制中等学校を前身とする県立高校という制限がつけられ、まずはそれらの沿革史の概要が網羅的に展開され、次いで通史的叙述が充実している横浜緑ヶ丘高校、川崎高校、鶴見高校の3校に絞って比較分析をおこなっている。第2部のテーマ別比較分析は長野県の定時制課程、神奈川県の男女共学という二つのテーマ別の検討をおこなっている。戦後のある時期、定時制課程は青年教育において重要な役割を果たしてきたはずである。本書では長野県に限ってはいるが、定時制課程の沿革史を並べてみていくことで戦後史における定時制課程の存在感が伝わってきた。また、男女共学も戦後〈民主〉教育の華であったが、沿革史の記述を比べて見ていくとそこに良いも悪いも戦後教育の衝撃が浮かび上がってくる。まさしく男女共学は戦後教育のもっとも大きな衝撃ではなかったか。それが沿革史の叙述を並べていくとすごみを帯びてくるからおもしろいものである。
 ところで、比較分析の手法が執筆者によって異なるのは地域の特性の所為なのか、執筆者の趣味なのか。読む方としてはもう少し整合性がほしかった。また、当初想定されていた(3)個別沿革史の検討といった枠組みはどこへ行ったのか。宮城県に関していえばそれに相当するものと考えていいのか、明確ではなかったと思う。しかし、本書が多くの沿革史編集者の手元に置かれることで、これからの高校沿革史編纂事業は確かな土台を得たということができよう。

財団法人 野間教育研究所 2011年9月発行 A5版 232頁 5,000円
公益財団法人 野間教育研究所 2015年8月発行 A5版 295頁 5,000円
posted by ウィンズ at 15:27| 福岡 ☁| Comment(0) | 教育史及び教育学 | 更新情報をチェックする
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