2013年09月03日

野村路子『テレジンの小さな画家たち』偕成社 一五〇〇円+税

 野球が、野球だけではなくスポーツが戦争の中でゆがんでしまったのだとすると、それは悲しいことだけど、もっと悲しいことは戦争による理不尽な死よね。
 ちょっと前にね『テレジン収容所の幼い画家たち展』という展覧会をやっていたので何気なく入ってみたら、これは驚きだったのね。なんとナチスの強制収容所のひとつであるチェコスロバキアのテレジン収容所にいた子どもたちが描いた絵の展覧会だったのです。
 ナチスの強制収容所がどんなにひどいところだったかは、聞いたことがあると思います。人間扱いをされない状態だったのですが、あまりにもそういう生活が続くと収容所内で暴動が起きてしまいかねません。それでドイツ軍はユダヤ人に音楽をするのを認めたそうです。それで少しは気持ちをなだめようと考えたのでしょう。そういう時間を子どもたちにも与えたいと思ったおとなたちがドイツ軍と交渉して一週間に一、二度、夕食のあとに子どもたちのための〈教室〉を開くことを許可してもらいました。ただそこでは集まって歌を歌って、ゲームをすることだけが許されたのです。何かを学ぶことは許されませんでした。
 でもおとなたちは子どもたちになにかを伝えていきたいと思っていました。それが生きる希望だったのかもしれません。そういう中でフリードル・ディッカー・ブランディズという四十四歳の女性画家が子どもたちに絵を教えようといいだしたのです。そうしてフリードル先生の指導で子どもたちは絵を描くようになったのです。おとなたちは子どもたちのために紙や絵の具やクレヨンなんかをドイツ軍の目を盗んで手に入れてきました。それからフリードル先生は貼り絵や切り絵なんかも教えてくれたのです。
 そうやってだいじな時間を過ごしていた子どもたちも次々と〈東〉へ送られていきました。〈東〉とはあのアウシュビッツです。テレジン収容所には一万五千人の子どもがいたとされています。でも、戦争が終わったときに生き残っていたのはわずかに百人だったといいます。
 戦争が終わってテレジンの収容所は解放されます。テレジンの子どもたちの世話をしていた人が引き上げの途中にテレジンの収容所跡を訪ねて、何か子どもたちの想い出でもないかと探してみたら、なんと4,000枚の絵と数十枚の詩の原稿が出てきたのです。これが展覧会に並べられた絵だったのです。
 戦争って何て理不尽なんだろう。人間が人間であることを否定すること、それが戦争なのだということをテレジンの小さな画家たちは教えてくれました。こんなことはやはりやっちゃいけないんですよ。


★★★★ この本は子ども向けの本だから教室に一冊置いてあげましょう。子どもたちのいのちがおとなたちの起こした戦争で奪われていく理不尽さを学んでもらいたいから。そしてこれはナチスだけが悪いのではなく、自分たちの敵は殺さなくてはならない、という戦争が悪いのだということを子どもたちと一緒に考えましょうよ。
posted by ウィンズ at 19:20| 福岡 ☔| Comment(0) | 戦争と平和 | 更新情報をチェックする
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