2013年09月03日

桑田真澄・平田竹男『野球を学問する』新潮社 一三〇〇円+税

 部活でがんばっているセンセイって多いよね。もしかしたらこれを読んでいる中にもいると思うのね。そして、部活を通して生徒たちを成長させるのだと意気込んでいる人もいるよね。中にはさ、〈部活命〉なんちゃって、二日酔いで年休とっても、部活の指導には出てくるっていう〈熱血!〉教師も見たことがあるなあ。それとさあ、部活でビシビシ鍛えれば根性っちゅうか、そういう精神的にもええことになるやろし、と信念を持って部活に取り組んでいるセンセイも多いんちゃなかろうか。
 確かに部活で鍛えれば忍耐力とか協調性とかいろんな力がつくような気がするし、それは教科教育では得られない力みたいに思うこともあるよね。チームプレイで得られる友情はなにものにも替えられない青春の証みたいなものだし、先輩と後輩の年齢を超えた交流なんかも学級活動では得られない大きな財産なのかもしれない。つらい練習に耐えて、みんなの努力をあわせて勝ち取った優勝の記憶はきっといつまでも心の支えになると思うのよね。
 その典型的なのが、甲子園だろうね。あそこには青春のドラマがぎっしり詰まっておるわ。
 だから、『学習指導要領』でも、部活動は「学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等に資するものであり…」とその必要性を盛り込むようになったのはそういう教育効果を考えてのことのようね。
 ところがさ、あたいの友だちで自分の子どもには絶対に部活はさせない、なんて息巻いているのがいてね。
「なんで好かんと?」
て、訊いたら、
「だって、あんなもん、青春の汚点よ。二度と思い出したくないトラウマなんじゃ」
て、ぬかしようとよ。
 それで、ちょいと追求したらさ、そいつね、運動神経があんまりいい方じゃなくてね、へたくそなものだから、いつも友だちにはバカにされるし、先輩はパシリに使うし、先生は「根性が足らん」ちゅうてへとへとになるまで練習させるもんだから、おかげで膝を痛めて、いまでも古傷が痛むんだと。ついでにその傷は心の傷だとも言ってたのね。
 そりゃ、部活でそこそこやれた人間にとってあれは楽しい想い出だったけど、いやな思いを溜め込んでたやつもいたんだね。あたいの学校はどっちかちゅうと仲良くやれればいいとかいって、一回戦で負けたけど先生がコーラを驕ってくれた。でも優勝候補の学校が準決勝まで進んだのに、そこで負けたゆうて先生にビンタくらわされていたのを見たときは、さすがにひいたわ。
 で、部活(文化系の部活もあるし)ていうか学校スポーツの役割とか意味について考えてみたくなったのね。もちろんその代表は甲子園だし、そのまた代表はプロ野球の成功者だよね。ということで、この本なのだ。
 桑田真澄という名前は知っていますよね。そう、読売ジャイアンツのエースだった人です。その桑田氏がなぜか早稲田大学の大学院に入って修士論文を書いたのだそうで、この本は桑田氏の修士論文をもとに指導教員の平田先生と語り合った本なのですよ。野球を学問しちゃえば、どうやって子どもたちを鍛えて県大会で優勝させられるかって思っちゃうもんね。まずは桑田氏は「野球道」を研究したいと考えたようなのね。
 なぜなら「野球道」といった美名のもとで桑田氏自身、体罰やいじめを受け、長時間の練習に耐えてきた少年時代があり、そこに疑問を持っていたということが問題意識の原点になるのね。そうそう、研究というのはそういう課題意識の立て方がだいじ、ってどっかの大学のセンセイが言ってたような。
 そうしたら飛(とび)田(た)穂(すい)洲(しゆう)という人物に出会ったのね。出会ったといっても研究上で出会ったのだ。飛田穂洲は明治一九(一八八六)年生まれで昭和四〇(一九六五)年に亡くなった人だから昭和四三(一九六八)年生まれの桑田氏とはすれちがってもいない。
 この飛田穂洲という人は早稲田の初代監督を務めた人で、彼がベースボールをあたかも武道のように「野球道」と呼んだそうなのです。そして学生野球は教育の一環である、という姿勢で、試合よりも練習を重視したんだそうな。ほほう、そういうことが書いてあるんですよ、この本には。つまり部活の指導者には必読の書というわけですね。
 それはなぜかというと、戦時中に野球は「敵性スポーツ」として軍部に弾圧された。それを飛田は野球を「野球道」として位置づけることでその精神は死の練習によって培われ、母校愛は国家愛であり、一致団結によって敵と戦い、そこには犠牲的精神があって、まさに国難に準ずる軍隊のようなスポーツだと主張することで軍部から野球を護ったんですと。まあ、つまり、野球というスポーツを戦争に協力するものしてゆがめたということなのね。それが今の部活の猛練習につながっているとすれば、そして部活で教育をしようと考えるのならば、それは戦争中と同じ発想だというわけよ。
 それで、桑田氏は新しい「野球道」を作ろうとするわけで、そのあたりは読んでみてのお楽しみ。

★★★★ スポーツ部活の指導者を自称する人には必読ね。それと 部活のリーダーになる中学生、高校生だったら読んだ方がいいわね。とっても読みやすい本だから。
posted by ウィンズ at 19:19| 福岡 ☔| Comment(0) | 教育及び教育問題 | 更新情報をチェックする
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