2013年09月03日

安田浩一『ネットと愛国―在特会の「闇」を追いかけて―』講談社

 近頃、ネットの世界での人権問題というのが大きな課題になってますねぇ。人権に限らないですが、猥褻なものから残虐なものまでその表現は際限なく自由になっています。それって手塚岸衛の言う「消極的自由」なんですかね。
 えっ!「なにそれ?」と言う声が聞こえましたのですけれど、説明しますとですね、その昔、千葉師範学校付属小学校に手塚岸衛というセンセがおったんですと。千葉師範ていうのは今の千葉大学教育学部のことだと思うんだけど、その人がいわゆる大正自由教育の音頭取りの一人で、モロに「自由教育」論をぶっていたわけですよ。その彼がですね、
「自由には消極的自由と積極的自由がある」
 と言ったわけですよ。
 手塚の言う「消極的自由」というのは、例えば、籠の中の鳥は行動が制限されているから不自由なのだ。それで籠をとってやったら自由になる。そういう自由なのですね。それは限りなく勝手気ままになるのでよくない。つまり、そのままほっとけば、
「空気もじゃまだ」
 とか言って、空気まで取り去ってしまうことになる。そしたら死んでしまうじゃないか。まあ、そういう自由だってことでね、この消極的自由というのはあまりお薦めできない、ということのようなんですね。
 それにたとえれば、まさにネットの世界は消極的自由の世界なのですよ、今や。2ちゃんねる、というのは知ってますよね。ネット上でいろんなことを匿名で語り合っているサイトです。年中、管理者に不適切な書き込みがあるので削除するように勧告があるらしいけど、なかなか対応はされていないって、この間の新聞に出てたわ。それで覚醒剤の売買なんかにも使われているみたいだと書いてありましたですね。それって「消極的自由」をやりすぎて空気までとっちゃった、みたいな状態だと思うのね。
 それで、インターネットと人権の問題がいろいろ取り沙汰されるけれど、なんか放置されたまんまみたい。手の施しようがないのかしらね。人権侵害についてはめちゃめちゃだもん。検索してると部落差別やら、民族差別やら書き込みしほうだいね。差別発言ってシャバではきつく禁じられているから、ネットの中では匿名だということもあって勝手気ままに発散できるのかもね。そうして多くは弱い者いじめのスタンスと愛国を強調するので、〈ネット右翼〉なんて言い方もされているようですね。
 そんな中でネット空間から飛びだしてきちゃった人たちがいる。それが〈在日特権を許さない市民の会〉なのね。略称〈在特会〉。街角に出て在日朝鮮人に対する差別語満載の暴言を叩きつけていくカタチで出没し、それを動画に撮ってインターネットに流すというやり方で会員を増やしている連中だ。そして京都朝鮮学校妨害事件とか、徳島県教組乱入事件とかを引き起こして、こちらは逮捕者も出している。そうね、徳島県教組乱入事件は学校の先生ならよく知っているかもしれませんね。
 彼らの標的は在日韓国・朝鮮人の人たち、そして被差別部落。ともかくそれなりに批判することに対してタブーがあると考えられてきた被差別者に対してそうした暗黙のタブーを破ることを目的とするかのように耳を塞ぎたくなる差別的暴言を吐き続ける。
 著者の安田浩一氏はこの在特会の動きを追いかけてきたルポ・ライターなんですね。会長の桜井誠(本名高田誠、北九州市出身)をはじめとして、在特会の活動家をずっと追いかけて彼ら、彼女らに嫌われながらもその心の底にあるものを引き出そうとしているのがこの本なのですよ。
 この在特会、っていうのは愛国を語ったりするから右翼のようにも見えるけど(ネット右翼と言われるのはだいたいこういうものみたいなのだけれど)、最初は在特会を支えようとして「大人」の右翼たちも見放すようになったという。なぜなら在特会には、
〈思想がない〉
 のだと「大人」たちは見限ったらしい。とすると、彼らの活動は何をめざしているのでしょうかね。安田氏の取材を受ける在特会のメンバーの中には当然安田氏を忌み嫌うのもいるが(例えば桜井会長)、けっこう人なつっこい若者やふだんは物静かであったり、おだやかな人物もいるようなのですよ。そしてそれぞれがそれぞれに屈折したものを持っているみたいなんですね。同じような存在はあなたの隣にいるだろうと安田氏は言う。確かにいそうな気がします。もしかしたら、現代社会はそういう人たちを生み出しているのかもしれませんね。そして学校教育が教えてきた人権だの平和だのといった教師という「左翼」「エリート」の作った教条をぶちこわしたい在特会のような世代が続出してくるのですかね。こうした流れが人権や平和に影響を与えなければいいのにと不安におののいてしまいました。
 あ、そうそう、最初に書いた手塚岸衛の自由ですけれど「積極的自由」というのは理性に従って選択する自由なのでほぼ服従と同義なんですって。今ふうに言い直せば、「将来、いい生活したいよね、それなら勉強して、いい点取って、いい大学行って、いい会社に入ろうね。」という理性的な価値観に乗っかる自由で、たぶん「いい子」であり、「エリート」であり、学校の教師(日教組)の好みそうな生き方のことなのかな。そうしたら、在特会の「闇」が人権教育や平和教育にとって他人事ではないと思えるのですけれども。


☆☆☆ そう言えば福岡で在特会同様に部落解放同盟や日教組を攻撃してきた近藤将勝氏や、福岡市内でバーを経営しているという自称革命家の外山恒一氏なども在特会について取材を受けている。近藤は彼らの「言葉が宙に浮いている」と突き放し、外山は彼らを「うまくいかない人たち」と評した。
posted by ウィンズ at 19:16| 福岡 ☔| Comment(0) | 人権問題 | 更新情報をチェックする
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