2009年10月03日

竹内常一他『2008年版 学習指導要領を読む視点』白澤社発行、現代書館発売 二〇〇〇円+税

 一昨年末だったわね、教育基本法が改正されたのは。世間の人々にとって教育基本法が変わったことなんて自分の生活には何の関係もないよね、という人たちはけっこういるでしょ。そ、フツーの人には何のことだかもよくわからないしね。でも、学校にもそう言う人はけっこういるみたい。あたしの学校にもね、
 「教育基本法がどう変わろうとこの子の置かれたきびしさは変わらない」
なんて、顰めっ面で何かに浸っている御仁がいるわ。
 でもね、今年の春に学習指導要領が改訂になったでしょ。このために教育基本法を変えたんだと言えないこともないしね。なにしろ、小泉首相以来の新自由主義(弱肉強食)と新保守主義(親米国家主義)路線の教育改革がこの学習指導要領ではっきりしてきたんだと思うよ。
 それにしても現場だって、組合だって、ボッとしているよねぇ。まいったなあ、としか言いようがない。人権・同和教育もこの学習指導要領ではたいへんな危機になっちゃうんだ。少しはあせって欲しいな。で、いったい何が変わったんだろう。と思っても、学習指導要領を直接読んでもどこがどうなってんだかわかんないよね。そしたらこの本だよ。見た目もタイトルも購買意欲をそそらない地味ぃな本なんだけど、中身は半端じゃないのだな。
 昨今の解説書なんて、学習指導要領のまさしく解説であって、何がいいとか、悪いとか何にも書いてないよね。こんなふうに変わったので、これからはこうしましょうみたいな、毒にも薬にもならない書き方でしっかりかつ無批判に毒だけ注入するようなのばっかしだよね。ところがこの本はこの新しい学習指導要領に批判的な論客たちがそれぞれの視点で好きなように批判的に読み解いているのですよ。どうやら誰ぞが編集したと言うより、日本の教育改革の流れに危機感を感じた良心的な出版社が七人の侍ならぬ十三人のゴルゴ13を集めて書かせたものみたい。
 総論的な批判(ジェンダーの観点を含む)から各教科ごとの批判、それと今回の改訂の目玉の小学校英語や大きな柱になってる道徳教育なんかにもわたって全部で十三章ある。ずらっと並べてみるとこんな感じね。

 第1章 総論① 「教育改革」と学習指導要領の改訂(竹内常一)
 第2章 総論② 「車の両輪」とは何か(子安潤)
 第3章 総論③ ジェンダーの視点から読み取れるもの(木村涼子)
 第4章 国語 言語能力重視に内在する課題(阿部昇)
 第5章 国語(古典) 「古典重視」にひそむ危うさ(加藤郁夫)
 第6章 社会 社会科等における愛国心教育システム(小野政美)
 第7章 理科 「理科教育の充実」の意味(吉永紀子)
 第8章 家庭 家庭科の学習指導要領を読む(鶴田敦子)
 第9章 道徳① 道徳教育の貧困(松下良平)
 第10章 道徳② 「道徳」の構造的欠陥(藤井啓之)
 第11章 外国語活動 「小学校英語」を考える(寺島隆吉)
 第12章 総合的な学習 戦後史の中の「総合的な学習」とこれから(金馬国晴)
 第13章 特別活動 特別活動の終わり(新谷恭明)

 ほらほら興味あるところだけでも読んでみたくなるでしょう。自分に必要なところだけでも読んでいくといいわ。なにしろ今回の学習指導要領の改訂では学力の問題や愛国心教育をねらいとした道徳教育の強化なんかが全面的に出てきているのね。安倍元首相が言ってたように戦後民主教育を精算するものとして打ち出してきたのが今回の改訂なんだと思う。戦後民主教育ってかなり普遍的価値のあるものだったから、六〇年も続いてきたんだけど、教育基本法を変えてしまえば、あとはガタガタと崩れていきそう。この本が歯止めになるといいけど。


☆☆☆☆ 緊急出版なんだけどどれも実に内容が濃くって、すぐに役立ちそう(?)。あっ、役立つかどうかよりもこういうあぶない教育改革の時代に自分の教育観をきっちり鍛えることが必要だと思うの。そのためにヘンな解説書なんか読んじゃダメ。まずはこの本を読んで骨のある読み解き方を身につけなくちゃね。


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波平恵美子文・塚本やすし絵『いのちってなんだろう』出窓社 一〇〇〇円+税

 「いのち」については人権・同和教育の大きな柱だよね。『かがやき』とか『ぬくもり』なんかではまず「いのち」の大切さについて学ぼうとしているからね。それに『学習指導要領』の「道徳」でも「生命」は重要な項目の一つなのね(だから『心のノート』にも織り込まれている)。だから、私たちはいのちのたいせつさについてきちんと知っていなくちゃいけないはず。だけど私たちは何をもって子どもたちに説明できるのかなあ。
 いくつかの教材を並べてみても「とにかくいのちは大切なんだから」ということを子どもたちに押しつけたり、無理に共感させたりするくらいしか授業を持って行けない自分がいるのね。子どもたちも「いのちはとても大切だと思いました」くらいの作文を書いておしまい、みたいな感じがあるのかな。授業が終わっても、なんか消化不良みたいな気がするってことないかしら?
 そうなのよねぇ。私自身が「いのち」について何も知らないんだから。しかも、「いのち」と直面したことなんて私みたいな人間にはほとんどないし、ね。だから、私たち自身の薄っぺらい人生経験だけで、子どもたちにいのちという価値について教えるなんてことができるのか自信はなくなっちゃうのがほんとうのところかな。それに、そんなに大切なものを思いつきの「教師の思い」なんかで語られた日にゃ、迷惑なのは子どもなんじゃない。だって、そんな薄っぺらい生命観で生きて行かなくてはいけないんだから。
 でも、この本を読んでみて愕然とした。「いのちの大切さ」なんて教えようとしたって無理なんだよ、って。まずは「いのち」ってなにかを考えることが大切で、それは教師自身も考えることが大切で、子どもたちになんか決まり切った感想(「いのちは大切だと思いました」みたいな)を書かせることが目的なんじゃないんだって。
 まず「1 ペットが教えてくれるもの」という話から入る。あれあれ、答えが書いてないぞ。つづいて「2 いのちはあなただけのものではありません」と来ました。あれあれ、これも名前をめぐってのしきたりみたいなことで、ぜんぜん教訓なんか書いてはいないの。でも、へぇぇぇ、ってお話でね。んで、「3 『生きている』ことと『死んだ』こと」というお話。これはおばあちゃんのお葬式のこと。でもそんなに悲しい話ではないのだけれど、でもなんかずんと来るの。「そうなんだ、これが『死んだ』ってことなんだ」ってわかりそうな気がする。そして「4 私が死んだら世界はどうなるのでしょう」なんて、むずかしいテーマになってる。まるで宗教とか哲学の専門家が考えるみたいなテーマなんだけど、そうじゃない、そうじゃない。いろんな人の死についての考え方みたいなものがとてもわかりやすく書いてある。で、最後の章が「生きることを豊かにしてくれる二つの時間」だ。えっ?何で時間なの?!って思ったけど、この二つの時間って何だと思います?詳しくは読んでもらいたいけど、生きるっていうことは時間を使うことなのよね。
 へへへ、以上あらましを書いたけどどんな本だかみんなにはまだわかんないでしょ。
 で、著者の波平恵美子さんてどういう人かっていうと、なんと文化人類学者なんだ。それも日本民族学会会長も務めたっていうからすごい人なんだね。でも九大出身で芸工大にも務めていたってというからけっこう身近な人だったりして。
 じゃあ文化人類学って何か、って言われてもよくわかんないよね。波平さんに言わせれば「みなさんが学んだことのある総合学習という科目とよく似ています」(「著者からあなたへ」)ということなんだって。そう、波平さんが文化人類学の調査をしてきた中で見つけてきたことが題材となってこの本になっているみたいなの。だから、何か教訓めいた答えが書いてあるわけではなくて、人間はこうやって生きてきて、こんなふうに死んでいったんだ、ということから「いのち」について読むほうが考えてしまうようになっているし、すごくよくわかった気がするわ。


☆☆☆☆ あっ、この本、「10歳からの生きる力をさがす旅①」って書いてある。ちゅうことは②もあるのかな。でででで、で、この「生きる力をさがす旅」シリーズをさがしてみたらね(オヤジギャグしてんだけど)、ありました。②は『きみは一人ぽっちじゃないよ』ってんだ。

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波平恵美子文・塚本やすし絵『きみは一人ぽっちじゃないよ』出窓社 一〇〇〇円+税

 そんなわけで、②を手に入れちゃいました。さてどんなんかなあ。あれれ、不思議な家出のお話からはじまります(「1 子どもはみんなに見守られて大きくなります」)。そうなんですね。生きていくって家出みたいなものなんだからね。でも、不思議だなあ。子どもにとっておとなは不思議な存在なんだなあ。でも、みんなが子どもを育てていたなんて。うん、いいお話。
 そうやって次々と読み進めていくとこの本には不思議なお話が詰まっている。人間が生きているのは小さな社会の中なのね、たぶん。家庭とか、学校とか、地域とか…だけど、それらは家庭とか、地域とか、学校とか言われるけれど、人間の集まりじゃない。その人間の集まりの中で人はそだち、くらし、死んでいくのよね。そんなことわかりきっているんだけど、今はなかなかそれができていないよね。いじめがあったり、自殺があったり、なんてそういう小さな社会の問題よね。でもすごいのはそういう小さな社会の中で仲良く生きていくための人間の知恵ってあったのね。なんかくり返しくり返し読んじゃった。




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波平恵美子文・塚本やすし絵『生きているってふしぎだね』出窓社 一〇〇〇円+税

 そんな感じで歳月がたち、ある時波平さんの名前をチェックしたら、このシリーズの③が出ているではありませんか。題して『生きているってふしぎだね』。
 ところで、ポルトマンという人の指摘によれば人間は一人では生きていけない「生理的早産」というかたちで生まれるらしい。これは九大の土戸センセイのテキストで勉強したの(新谷恭明・土戸敏彦編『人間形成の基礎と展開』コレール社 この第一章「人間-この特異な存在」に書いてあった)。つまり、生まれたばかりの赤ちゃんで自分でえさも見つけられない、まるで胎児みたいじゃない。だからこそ人間には「たぐいまれな可塑性」があるんだって、書いてあったわ。つまり、教育には意味があるってことね。
 でも、赤ちゃんはなぜかわいいのかってことは土戸センセイの本には書いてなかった。この本ではその理由から書いてあるの。それからかわいい赤ちゃんから子どもが大きくなっていくのにみんながどうやってかかわっていったか。どうやっておとなにしていったのか。どうしておとなは口うるさいのか。おとな=一人前になるってどういうことなんだろうか。うん、この本って子育ての本だな。親も教師も子どもとどうやってかかわっていったらいいのか、何のために育てるのか。そんなことが文化人類学(ていうか、民俗学かもしれない)の知見に基づいて書かれている。これ一冊あれば育児ノイローゼにならないですむし、学校で生徒を怒鳴り散らさなくてもすむ。とっても役に立つ本だね。


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波平恵美子文・塚本やすし絵『家族ってなんだろう』出窓社 一〇〇〇円+税

 あっ、まだあった。このシリーズには④もありました。『家族ってなんだろう』です。
 確か文化人類学って言えば、家族の研究って大きなテーマだったような気がする。マリノフスキーとか(昔読んだのよ!)、トドブリリアント島とかいう島で私たちとはちがう家族の仕組みがあるのを解き明かしていた、みたいな本だったと記憶しているけど。
 当たり!波平さんはやはりそのことについて触れていた(72頁)。正しくはトロブリアンド諸島でした。いろんな家族があるから、何でもあり何ではなくて、何のために家族があるかといえば、人間が人間育てる場としてあるんだってこと。そんなことがいっぱい書いてある。読んでて、へぇぇぇ、と驚くようなことも書いてある。私たちの頭の中にある家族像だけで子どもに向かっていってもダメね。もっと柔らかく考えれば人間が幸福に生きるために家族はあるのね。この本もしっかりはまってしまいました。
 とかなんとか「10歳からの生きる力をさがす旅」四冊を紹介しちゃった。生きる力なんて言っても、わたしたちは実は何にももっていない。だって学校出て学校で働いているだけだから、生きる力なんてものからいちばん遠いところにいるのね。でも、だからこそ伝えられるのはこうした学問の英知から得た世界観だったり、生命観なのね。それらが子ども向けにやさしい(易しいかつ優しい)文体で書かれている。
 そんなことはさておき、この本たちに載っているお話はどれ一つとっても著者の価値観を押しつける話じゃないのね。あくまでわたしたち人類が生きてきた中から素材を見せてくれる。

☆☆☆☆ 平易で内容が深いから子どもたちと一緒に考えるといいね。クラスで読み聞かせてもいいかもしんない。
 だけど、いちばん読まなきゃいけないのは教師かもね。一冊読んだら次に手が出る本たちだよ。


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